2005年12月08日
遠野秋彦の庵小説の洞 total 1993 count

XML=エクストリーム・マッスル・ロジカル

Written By: 遠野秋彦連絡先

 時は1998年2月。

 流行の寵児

 その名はXML

 XとMとL

 天下無敵の3人が集まった

 まずはXの登場だ

 俺の名前はX

 エクストリームのX

 つまり究極

 最強無敵

 限界ギリギリぶっちぎり

 何しろ、自分でタグを決められる

 どんな情報もどんと来い

 何でも思いのままに

 次に登場はMだ

 おっす

 俺はMだ

 マッスルのMだ

 マッチョな筋肉で

 どんなデータも支えてみせるぜ

 電子出版

 マルチメディア

 Eコマース

 大切な情報

 重要な情報

 巨大な情報

 何でもござれ

 そして最後はLの登場

 さてどん尻に控えしは

 論理の戦士

 ロジカルのL

 あらゆる情報を

 分析、集積、設計だ

 スキーマを描け

 言語を作れ

 セマンティックも意のままに

 世界のすべて標準化せよ

 究極の論理は

 世界を幸福に導く

 等しく平等に

 あらゆる情報は

 全ての人のために

 それが理想の論理

 そして拍手喝采

 XとMとL

 この3人が

 がっちり手を組み

 立ち上がる

 観客達は大熱狂

 未来の栄光は、この3人の手に

 誰もが思った

 誰もが信じた

 誰もが興奮し

 自分が切り開くべき未来を

 いつの間にか忘却した

 ……

 ある日誰かが気が付いた

 長い時を経て

 誰かが気が付いた

 世界はまるで変わっちゃいない

 XとMとLが切り開くべき未来は

 未だに達成されていない

 いったいそれは

 どういうことだ

 皆も気付き、騒ぎ始める

 そして始まる人捜し

 XとMとLはどこにいる?

 それはあまりに困難で

 意外に満ちた探索行

 やがて見付かる最初の一人

 Xは眠っていた

 ボツ企画書の中に

 ゴミ箱から回収された

 その書類に書かれた

 素晴らしい未来イメージ

 XMLを使った

 企業間電子商取引と

 Webサービスのシステム連携

 その表紙に

 無情に朱インクで描かれた

 巨大な×印

 基礎技術に過ぎないXMLで

 いきなり応用システムの

 イメージを描くことなど

 できなはしない

 だから付けられた

 ×印

 Xの本当の姿は

 エクストリームではなく

 却下を意味する×印

 人々は落胆した

 しかし、希望はあった

 あのマッチョなMなら

 強大なパワーで

 まだ皆を救えるかもしれない

 探せ探せ

 Mを探せ!

 そしてMは見付かった

 オカマバーの奥で

 似合わないスカートをはいて

 男の客を取っていた

 あの筋肉の持ち主が

 どうしてここまで落ちぶれる

 あらゆるデータを支えると

 豪語した筋肉だというのに

 Mはポツリと告白した

 俺の筋肉は

 大飯ぐらいだから

 いくら強くても

 割に合わない

 もっと安い手段で

 チマチマ処理した方が

 ずっとリーズナブルなのさ

 Mは無駄が多く

 手間も金も掛かる

 そしてMは自分で気付いたのだ

 こんな自分が嫌いではないと

 むしろ、こんな自分だから好きだと

 Mは自分の本性を知った

 ナルシストのマゾヒスト

 ダメな自分を愛する心

 他人からなじられてこそ

 喜びに打ち震える

 この性格

 Mの本当の姿は

 マッスルではなく

 変態性欲マゾヒスト

 人々は落胆した

 そしてすがった

 最後の希望に

 ロジカルのLに

 人々は探した

 彼の居場所は

 他の2人よりも

 ずっと遠かった

 それは南の無人島

 ひっそり一人で

 Lは住む

 人々は島に押しかけ

 そこで目撃した

 分厚い原稿の束を

 既に書籍100冊分

 だがLは言った

 完結するにはこの10倍

 書かねばならないと

 それさえできれば

 世界の全ては

 論理の力で

 統合される

 あらゆる不幸は

 消去され

 理想の世界が現出する

 その言葉に

 人々は驚喜した

 まだ希望はある

 Lこそ希望だ

 しかし、一人がふっと言った

 去年の今頃も同じことを言っていた

 原稿の束は10分の1

 この10倍書けば終わると

 そして原稿は10倍に増えた

 それなのにまた10倍という

 別の一人が言った

 俺は2年前に聞いたぞ

 原稿の束は100分の1だった

 この10倍書けばできると言った

 次々と同じような証言が

 人々も間から飛び出す

 何のことはない

 論理の完成という過去の約束は

 すべて反故にされていた

 いつまでも続く執筆中

 増え続ける原稿の束

 どこまで書いても完結しない

 完全なる論理

 彼に期待する者達は

 いつまで経っても

 できない論理に

 愛想を尽かし

 彼から離れた

 そして、今は一人

 Lは一人

 Lは叫んだ

 無知な他人の言葉など

 邪魔なノイズでしかない

 一人になって

 時の流れを忘れて

 論理を完成させる

 そのために無人島に住んだのだ

 皆は、そのLを見て

 もはや論理的とは

 思わなかった

 完成時期も論理的に語れない

 そんな態度はもう既に

 非論理的な

 子供の叫び

 他人を排除した

 痛烈な孤独感

 Lの本当の姿は

 ロジカルではなく

 孤独なロンリー

 人々は落胆した

 結局、XとMとLは

 何ももたらしては

 くれなかった

 Xはエクストリームではなくペケだった。

 Mはマッスルではなくマゾヒストだった。

 Lはロジカルではなくロンリーだった。

 誰かがぽつりと言った。

 もしかしたら

 他人を頼ったのが

 そもそもの間違いじゃないか?

 全てを解決してくれる

 凄い人など

 本当はどこにも

 いないのではないか?

 別の誰かが叫んだ

 ならばこの私の

 この問題は誰が解決してくれるというのか

 他の誰かが答えた

 みんな自分の問題を抱えて忙しいんだ

 おまえの問題は、おまえ自身で

 何とかしろよ、と

 そして誰も何も言わなくなった

 誰もが

 自分の問題を

 他人に押しつけようとした

 後ろめたさを持っていたから

(遠野秋彦・作 ©2005 TOHNO, Akihiko)

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